LIFE is.../平井堅

LIFE is ・・・

LIFE is ・・・


平井堅のアルバムいっこずつ感想書くシリーズ。2003年1月リリース。
曲のどういうとこが好きかと、平井堅のディスコグラフィから憶測することと、発表当時の空気を自分がどう捉えているかを書くので、わりと長くなります。
本作についてはとりわけわたしの想像、独断を多く書きます。このアルバムはわたしにはそういうものを誘発します。
前2作は松尾KC潔プロデュースでしたが、今作はトータルプロデューサーはついていません。
タイトルも変わりゆく中での変わらないものであったり、失う中で得るものを意味していたのが、「LIFE is...」と、SVCのCが欠落しています。
ディスコグラフィーから想像するに、歌が上手くてちょっとおしゃれなR&B歌手の地位はある程度確立したので、さらなるブレイクスルーを求めて色々試行錯誤し、生まれた名曲がより多くの人に受容されていくんだけれども、どんどん満身創痍になっていく、痛ましい記録になっていると思います。
Strawberry Sex」で始まって「大きな古時計」で終わるアルバムですから、怖いです。

リリースにあたってこの曲を歌番組で披露した当時、完全にすべり倒していて共演者もお茶の間も凍りついていたように記憶しており、今でも背筋が寒くなります……。
おそるおそるちゃんと聴いてみると、とてもかわいらしくてホーンセクションのかっこいい曲でした。ファンクチューンだって。
アルバムの1曲目にぴったりの華やかさがあって、例えば嵐の「Popcorn」の「Welcome to our party」みたいにこれから始まるわくわく感があります。
この曲がもし「Strawberry Kiss」だったら普通にありだし、嵐が歌ってもおかしくない、ここは大野君とかここは松潤とか妄想のパート分けをするのも楽しいです……。
ただ結果論で言えば、このタイトルで平井堅はシングルを切って、お茶の間の心胆を寒からしめた……。
後にキャリアを更に積み重ねて「CANDY」を発表した時には、みんなの反応も慣れていて、引きつつもはいはいって受け入れられる感じだったと思うので、流れやタイミングだとか回数の積み重ねって大切だなぁ…と思います。

大人っぽくてかっこいいR&Bの曲のはずなんだけど、わたしは1曲目の痛手を引きずって頭に入ってきません……。

  • 03. ex-girlfriend (15thシングルc/w)

Cristal Kayの「Ex-Boyfriend」(2001)とか、元カレ元カノをex-boyfriend/ex-girlfriendって言うのがR&B文化の中で日本に入ってきてはやってた時代ですね。
1曲目がそれまでの路線から冒険してる15thシングル曲で、カップリングとしてこの勝手知ったるR&Bの曲が位置づけられると捉えています。従来の路線を踏襲し耳に馴染む心地よい曲で、元カノと会ってて慣れてる居心地よさを歌ってる内容とばっちり合っているな、でも立ち位置としてはやっぱり正統派R&B路線とは既にお別れしていたんだな、と思います。

  • 04. Ring (17thシングル)

この曲がこのアルバムで一番好き!
生きている中で良いこともあれば悪いこともあるのは頭ではわかっているんだけれど、それにしても辛いことの割合がほとんどで、幸せなことって本当にまれにしか出くわすことができない、と実感している人向けの曲、不幸を感じやすく幸福を感じにくいわたし向けの曲だと思っています。笑
この曲って、絶望の中に希望があったらいいなと願う心を捨てないようにすることを歌っているんですけど、つらさが身にしみわたっている描写が真に迫りすぎていて、最後にあなたとか指輪に喩えている希望とかが出てきても、無理やりとってつけたようなハッピーという感じがしてしまいます。
憶測では、現状としては本当にやりきれなくてつらいんだけど、でもそれだけじゃ歌にならないから、悪いことばっかりじゃないのは頭ではわかっているから希望を持たせて締めよう、っていう感じを受けます。
ドラマ「サイコドクター」の主題歌だったのもあり、落ちきっている時になんとか自分を踏みとどめようとする曲のように思っています。
歌詞の内容はラルクの「虹」に共通するところがあって、「Ring」の「本当は誰もみな 声にならぬ叫び抱えて/もがいては諦めて 今日という日を塗り潰してる」と「虹」の「本当はとても心はもろく/誰もがひびわれている」というところなんかはまさに呼応し合っています。
ところが、「虹」は、雨が降った後に虹がかかるように絶望の後に希望があるということ、活動休止を経て復活するということをバンド名を冠してまではっきりと打ち出したのに対して、「Ring」は落ちる曲を出すに至る明確なできごとはないし、指輪に喩えたのも強度が弱い感じです。
それでも「Ring」がとても好きだなあと思うのは、後ろ向きな人がつらい真っただ中にある時の気持ちをすごく的確に歌っているところです。

  • 05. Come Back
  • 06. somebody's girl (17thシングルc/w)

パラッパラッパーのタマネギ先生面と教習所のムースリーニ先生面(わたしずっと牛だと思ってたよ!ヘラジカなんだね!ムースだもんね、ていうか名前も知らなくて教習所の女の牛の先生と思ってた)を併せ持っているような曲。
終盤にAIのラップが殴り込んできてかっこいい、迫力で勝っちゃっているのでは?

  • 07. I'm so drunk

AKIRAが作曲・編曲・プロデュースを手がけています。
音色やリズムがRIP SLYMEのトラックを連想するんですが、歌声を乗せると主観ではあっちの方がブイブイ言わしてる感じで、こっちの方が甘酸っぱい感じです。
楽しくお酒を飲んでシュワシュワ、フワフワしてる雰囲気がサウンドになっていて好きです。

  • 08. Missin' you ~It will break my heart~ (14thシングル)

Babyfaceとのコラボレーション。911を受けての曲ということです。
話題性もあるし時代の流れも組んでいるのにこの曲がブレイクスルーをもたらすまでには至りませんでした。
後付けで考えると、本格R&Bを突き詰めればいいってもんじゃなかったということだと思います。
こういうエリアは久保田利伸が開拓しつくした跡かなという気もします。

  • 09. 世界で一番君が好き?

この曲もすごく怖くて好きだなあと思います。
「流星ビバップ」の曲調と「それはちょっと」とかの歌詞を併せ持っているかのような曲、って言っちゃうと微妙にずれるけど、小沢健二から一瞬の幸福への確信を奪い去ったような曲って言えばいいのかな。笑
ジャズピアノに乗せて饒舌にかわいらしく、世界で一番君が好きさとさんざん連呼しておいて、嘘かもと落としてしまいます。
小沢健二はたとえ永遠には続かないとしても絶対的に肯定されうる一瞬はあると歌っていると思うんですけど、この曲はそんな絶対的な愛みたいなものを根本的に信用できていなくて、大きな声で神に誓うよ、と饒舌に語れば語るほど不信がくっきり浮き出てしまう淋しい曲だなぁと思います。

  • 10. メモリーズ

のちの「バイマイメロディー」に通じるような四つ打ちの軽快な曲に乗せて、切ない別れと旅立ちを歌っています。
歌い出しの「きっとこんな風に 終わりは来る 前ぶれも無く」っていう、突然に別れが来ること自体は予感していたかのような淋しさが、後ろ向きな人あるあるっていう感じで刺さりますね……。
「輝く宝石、心の鍵、永遠のぬくもり/僕は君に何を与えただろう」と、「Ring」で信じようとしたものもやっぱり失われてしまうことが駄目押しされているようにも思います。

  • 11. LIFE is... (アレンジ版は18thリカットシングル)

我せつない、故に我ありと言っているような、どこまでも淋しさが心を震わせる名曲だなと思います。

  • 12. 大きな古時計 (16thシングル)

超本格R&Bの「Missin' you」もはっちゃけ曲の「Strawberry Sex」ももう一歩ブレイクスルーに至らず、大勝負として超有名な童謡のカバーに打って出て、2002年のオリコン年間7位、紅白歌合戦初出場、2003年センバツ行進曲に選出と大成功の結果を残します。「カバー歌手」として地位が築かれます。亀田誠治プロデュース。
大ヒットのためには、多くの人が感動を共有しうる物語が要請されていて、それを大きな古時計というみんなが知っている曲に求めたのだと思われます。
「LIFE is...」がリリースされた時代について自分なりに捉えようとしてみると、世紀末を乗り越えて新たなミレニアムが訪れたのだけれども、2001年4月に小泉純一郎が首相になり、5月場所で貴乃花に「痛みに耐えてよくがんばった、感動した」と言ったように、閉塞感の中痛みに耐えてがんばる、ということが要請された時代でした。2001年9月11日のアメリカ同時多発テロ事件もまた人々の心を痛めました。
心の傷を、切ない歌声に、わかりやすい物語に泣くことで癒そうとする時代の要請があって、「地上の星」(00年シングルカット、02年紅白出場)「ワダツミの木」(02年)「世界に一つだけの花」(02年アルバム収録、03年シングルカット)「もらい泣き」(02年リリース、03年にかけロングヒット)「さくら(独唱)」(03年)みたいな曲たちが席巻します。
「大きな古時計」と百年続くということで共通している「ハナミズキ」も911を受けて生まれ、03年に初披露され04年にリリース、ロングヒットとなります。
「泣ける曲」のムーブメントは平井堅のディスコグラフィにおいては04年の「瞳をとじて」での最高潮へと連なっていきます。
一方で、「大きな古時計」がヒットしたこと、外部の物語によって登りつめたことは、平井堅の内部の物語を空白にもした、「LIFE is...」の述語を欠落させもしたのではないかと憶測します。

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