SENTIMENTALovers/平井堅

SENTIMENTALovers

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アルバムの感想いっこずつ書くシリーズ、2004年11月リリース。
本作は、最大のヒットシングル「瞳をとじて」が収録されていて、切ないバラード芸の確立を堪能できると思います。かわいらしい曲とのバランスも取れていて、痛々しさが薄まっているように感じました。
切ない、という状態が、じわじわと来てサビで泣きの堤防を決壊させて、はい涙溢れます、という「瞳をとじて」型だけではなくて、ぐるぐるぐるぐるーと、心の中を思いが高速で巡っていて、そのエモーショナルな動きがあんまり激しくて身動きが取れなくなってしまう、そういう場合にも切なさが発生するんだなあと思いました。どちらも耳から入ったら否応なしに人の心を捉える曲の力があると思います。
このアルバムは、心の中でたくさん思いが発生しすぎて金縛りにあったかのような状態になっているシチュエーションを描いたものが多いと感じていて、全曲平井堅作詞なので、たぶん平井堅はすぐ頭の中でいろんなことが駆け巡ってしまう人なんだろうなあ、とシンパシーを覚えました。最近になって、全員がそうなわけではない、と知りつつあり、はっとしているところです。

  • 01. 思いがかさなるその前に… (22ndシングル)

亀田誠治編曲。
「その前に」というのが、核心だなあと思っていて、いろんな出来事が起こる前に先に切なさが襲ってきて感傷に浸ってしまう、それをさらにもう一瞬前に察知してふと息を呑んでいるような、何段階も先回りしている曲だと受け取っています。

  • 02. jealousy (21stシングル c/w)

彼女の心が離れているのをうっすら感じ取っている主人公は、夢の中でナイフを持って寝室に入っていって、浮気現場の彼女を刺そうとするんだけど、夢の中でも殺すことはできなくて、でも目覚めても黒いもやもやは消せない、ていう内容。これも、彼女の心が別の人に移ろっているっていう頭の中の考えがまずあって、それが夢っていう頭の中で起こる事件を生んで、さらにその夢のせいでまた悩む、全部自分の頭の中で渦を巻いているんですよね。

  • 03. 言わない関係

かわいらしい曲で、コーラスが「携帯電話にインプットした」「受話器あげるのボタン押せば」のところでピッピッピリーって電話っぽく言うところがお気に入りです。
「心と言葉は裏腹なんだよ/言わないけどわかってるんだろう?」っていう、頭の中でいろんな思いが駆け回っていて、それを表には出せないんだけど察してるんでしょ?って、自分の内面の考えは非常に細やかな一方で、相手の内面に対してはわりとザックリしているというか、自分の内面がそのまま適用されると信じて疑わないところが、非常にギクリときました。

  • 04. 君が僕に憑依した!!

AKIRA編曲。(ハロプロでもおなじみの)
イントロから、ハロプロの曲でもおかしくないぐらい耳馴染みのある音色と思いました。愛理とかマイマイに歌ってほしいです。
サビの「憑りついちゃっているんだ」が、わたしの中で「群青日和」の「演技をしているんだ」に並ぶ、いるんだソングになっています。

亀田誠治編曲。
2004年のオリコン年間1位を獲得した自身史上最大のヒット曲。
この曲は、平井堅の頭の中の考えがどうこう、って言うより全力でヒットを狙って大成功したセカチューの主題歌、っていう感じだし、イントロからおしまいまで何も考えずただ耳を傾けていて心地よいような歌だなあと思います。

  • 06. 青春デイズ

田中直編曲。(ハロプロでもおなじみの)
「青・春・デイズ」でベースとメロディが重なるとこと、ベイベーって言ってるところが好きです。

  • 07. style (19thシングル)

自身の楽曲史上最速を謳った2ステップナンバーだって。こんな曲あったんだねー、と思ったぐらい記憶に無かったんだけれどかっこよくて好きな曲になりました。
2ステップってわたしよくわかってないけど、符割りやトラックがRIP SLYMEみたいで、こういうのなんだなーと思いました。KISS OF LIFEも2ステップ風味らしいんだけどこっちのほうがより雰囲気がわかった。

  • 08. signal (19th c/w)

ベースラインがかっこいいし間奏のパーカッションがなんかヒゲダンス的な雰囲気で自然と体が動き出しちゃうような好きな曲です。

  • 09. 鍵穴

なんか歌詞がエロいということでインターネットでは一部で有名っぽいんだけど、あんまり曲がぴんと来なかったです。

  • 10. nostalgia

ノスタルジア~~っていう感じの曲調なんだけど、ただ故郷に帰るから懐かしい、という歌ではなくて、故郷に帰るけどもう自分はそこにいた頃の自分からは変容してしまっているからどうしよう、っていううっすら怖さや心細さの募る寂しい歌だなと思います。

  • 11. キミはともだち (21stシングル)

全ての音色を一人で声や身体を使って出しているということで、曲調もあたたかみを感じます。シチューっぽい。

  • 12. センチメンタル

「君に出会って今わかったよ 心の居所(ばしょ)がどこにあるのかを/こんなにも ああこんなにも せつない音で泣いてる鼓動が聞こえる」と歌っていて、こう切ない曲を聴いてたりすると胸がぎゅっとなる感覚をみんな味わっているわけだから、心は心臓の辺にあるというのが体感としてあるわけですよね。恋愛をしてそれを感じる人もいるだろうし、音楽を聴いたりまんがを読んだりして切なさを堪能することもできる。
それが反転する感覚というのも平井堅の曲、手を変え品を変え泣かせにかかっているような曲たちを延々聴いてると不意に訪れます。
泣けるっぽいキャッチーな曲が耳に入ってくると反射的に感動を覚える。意思とは無関係に泣きのツボみたいなものを刺激されて心臓がぎゅっとなる。そこにはかえって情緒がなくて機械的な感じがする。顔の前に物が飛んできて目をつぶってしまうのと変わらないようである。
一方で平井堅の書く歌詞には、行動する前にいろんなことをぐるぐる考えてしまって身動きが取れないような状態も過剰なほど描かれています。
「頭で考える前に音楽が耳から入ってきて身体をホールドされている状態」と「考えすぎて身動きが取れない状態」が並行して現れる、そういうところが平井堅の曲の好きなところだなあと思います。わたしは日々の暮らしの中で理解できてないことをボンヤリとやってたり、考えすぎて行動できなかったりするばっかりだから、よけいに共振を感じるのでしょう。